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9.ミルクティーとクリスマス
あの日以来、副部長に会うこともなくなって。
気がつけば今日は、クリスマスイブ。
子供の頃はクリスマスが待ち遠しかったけど。
大人になると昨日と変わらないただの1日。
……とは言っても、さすがにクリスマスイブに残業は、精神衛生上よくないよね。
「はぁ…………」
深いため息をついてオフィスを出ると、凝り固まった首を回しながら休憩室へとやってきた。
もちろん、定時をとっくに過ぎたこの部屋に、私以外いるはずもなく。
大きな窓から見えるオフィス街の夜景を独り占め。
遠くに見える鮮やかなイルミネーションは、ロマンチックな気分へと浸らせてくれる。
だが、それも束の間。
ガラスに反射した自分の姿が、現実へと引き戻す。
ひどく疲れたありさまに、慌てて作った笑顔は不気味だ。
(かわいい女の子に生まれていれば…………。今頃、おしゃれなレストランから夜景を眺めていたはずなのに)
本日2度目のため息をついてから、自販機であたたかいミルクティーを買うと、その温もりに癒される。
休憩室には、小さな丸いテーブルと。
向かい合うように椅子が二脚。
それがいくつか置かれている。
窓際の特等席に座り、バックから小さな透明の袋を取り出した。
それには自分用にと取っておいた、形の悪いクッキーだけが入れてある。
こんな要領の悪い私だが、実は調理製菓の専門学校を卒業後、洋菓子店で1年ほど働いていた。
前の職場では良い思い出があまりなく、お菓子作りから遠のいていたはずなんだけど……。
話の流れからつい、同期の二人に前職を言ってしまってからというもの。
クリスマスには、手作りお菓子をリクエストされた。
(今年のシナモンクッキーも、喜んでもらえてよかった)
お昼休みの出来事を思い出しながら、3枚目のクッキーを口に入れた時だった。
自動ドアの開く音と共に、暖かい部屋に冷気が流れ込む。
誰かの視線を感じて、ゆっくり顔を上げると。
そこにいたのは――
(副部長…………!!)
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