9.ミルクティーとクリスマス

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 細身のスーツを着こなす高身長。  だるそうに歩く、疲れた姿もまたかっこいんだよなぁ……。  (って、見とれてないで挨拶しなきゃ!)    慌てて口の中のクッキーをミルクティーで流し込もうとしたせいで、盛大にむせかえる。   「お、ごほっ、おっ、お疲れ様で、ごほっ!」 「大丈夫?」    副部長の引いたような目が、私へと向けられた。   「だ、大丈夫です…………ごほっ」  自覚できるほど、瞬時に顔が熱くなる。    (あああ、もう。恥ずかしすぎる……!!)  男性に免疫がないとはいえ、我ながら今のはひどすぎる……。      一人であたふたする私をよそに、副部長は自販機の前に立つと、ポケットから財布を取り出していた。  飲み物を買いに来ただけの副部長を、こんなに意識してしまうなんて……。      落ち着きを取り戻そうと、ライトアップされた遠くのタワーに視線を向けるも。  気がつくと窓ガラスに映った副部長の一挙一動を目で追ってしまう。  (夏に会った時より、少しだけ髪が長くなってる……)  まるで、冬毛にかわった大型犬みたい。  お得意の妄想に、つい口元をゆるませていたのだが。  飲み物を持った副部長が振り返り、私の方へと歩いてきた。    (え……!? こっちに来る! また怒られたらどうしよう……。いや、残業の命令かも?)  ゆるんでいた顔はこわばって、視線がさまよい、完全に挙動不審……。    副部長は、何も言わずに私の向かいにある椅子を引くと、横向きに座り背もたれに肘を置いた。
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