9.ミルクティーとクリスマス

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(え…………? って、別に食べてくださいなんて頼んでないですよ!!)  さっきは少し悲しそうな顔をしていたから、心配していたというのに。  なぜか、(えつ)に入ったこの表情。    気晴らしに、私の反応で遊んでいるとしか思えない。  こういうタチの悪い冗談は、相手にせず冷静に聞き流す事を覚えた私。 「そ、そうなんですねー。あはははー」  適当に受け流し、その場を収めたつもりでいたのだが。  副部長は、私の反応が気に入らなかったらしい。   「『そうなんですねー』ってなんだよ」   「あ、いや……。す、すみません」   「せめてさ『そんなこと言わずに、おひとついかがですか?』ぐらいの、気遣いしてくれてもいいんすよ?」 「え? だって、あの……。今手作り苦手だって(おっしゃ)ったじゃないです……か…………」  副部長の凍てつくような威圧感に、フェードアウトしていく私の声。  恐々(こわごわ)と副部長の顔を見上げれば、文句ありげに睨んでくる。  (なんで、こうなるんですか……!?)    仕方なく私は、クッキーの入った袋の口を広げ、副部長へと差し出した。 「あの……よかったらどうぞ?」   「遠慮しとくわ」    なんて言いながらも、袋ごと奪われてしまった。    まったく、副部長の()()()()すぎる言葉と行動は、理解の範疇(はんちゅう)を超えている。  さっきは『手作りが苦手』なんて言っておきながら、豪快に一口で食べようとしてるし……!   「あの! あんまり、美味しくないですよ……」   「食べる前に言うかよ、普通?」   「すいません……」  副部長は、あきれた顔でクッキーを口に放り込むと、サクサクと心地よい音を響かせた。
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