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私はその横顔をじっと見つめ、固唾をのむ。
(まずいって言われたらどうしよう……)
不安とほんのわずかな期待が交錯した眼差しを向けていると。
副部長はごくりと飲み込んだあと、振り向いた。
ぱちりと目があって、視線が交わる。
何を考えているのかわからない副部長の表情が、ネガティブな思考へと導いていく。
(やっぱり、私の作ったクッキーなんか口に合うはずないよね……)
『まずい』って言われる前に、謝っておかないと。
そう心に決めた矢先、目をそらされてしまった。
(そ、そんなにひどい味だったって事!?)
喜んでもらえることを期待していたわけではない。
それでも、お菓子作りは私の唯一ほこれるものだったから。
肩を落とし諦めるように、副部長の横顔をのぞき込んで見ると……。
なぜか、その表情は柔らかくて、優しくて――
「ったく、そんな顔で見られたら……。美味しいとしか言えなくなんだろ」
(へ…………!?)
酷評されるつもりでいただけに、いつもよりずっとあたたかな声に心臓が跳ね上がる。
「え……あの! す、すみません!!」
初めて見る表情に、感情が揺さぶられ。
初めて聞く声色に、気持ちが昂る。
(私ってば、どんな顔で見てたんだろう!? それに…………。今の言葉は、ずるすぎる)
真っ赤な顔を隠そうとうつむく私に、軽快な音が呼びかける。
ゆっくりと目を向ければ、2枚目のクッキーをサクサクと美味しそうに食べる横顔がそこにはあった。
少し寂しげだった副部長を、笑顔にできたそんな気がして。
幼い頃の夢が、ふいに蘇る。
(私は、悲しい顔を笑顔にしたくて……。パティシエを目指してたんだった)
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