9.ミルクティーとクリスマス

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   副部長は何枚かクッキーを食べた後、ペットボトルに入った紅茶を静かに飲んだ。 「なんで、クッキーなんか作ってきてんの? ここは学校じゃないんすよ、田中さん」    キャップを締めながら、わざとらしく尋ねる声は、さっきとは打って変わって温かみのかけらも感じない。 「わ、わかってますよ! あの、同期の子にちょっと頼まれて……。あ、私、学生の時パティシエの専門学校に通ってまして…………一応」   「へー。まぁ、誰にでも一つぐらい、とりえがあるもんなんすね」    さっき見た優しい表情は、どこへやら。  上から目線で、(あお)ってくる悪い顔。    返す言葉も見つからず、作り笑いで誤魔化すと。    見下したように私へと向けていた視線が、一瞬落ちた先は腕時計だった。    (あ、もう時間………………)   「じゃあ、そろそろ戻るんで。お疲れ」   「あ、お疲れ様です…………」    すぐに椅子から立ち上がり、背を向け出て行く副部長。  次いつ会えるかもわからないだけに、名残おしいなんて思ってしまう。  きっとそう思っているのは、私だけなはずなのに……。  副部長の左手には、大事そうに持つクッキーの袋が見えたから――    (素直に美味しいなんて、言ってくれなかったのに。持って帰ってるし………………)    静まりかえった部屋でも、波打つ鼓動は収まらず、本日3度目のため息が漏れる。  胸がぎゅーっと苦しくて、それでも心はあたたかかった。
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