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唯一、料理ぐらいは楽しみにしていたはずなのに……。
なるべく副部長の視界に入らないようと。
なぜか私ばかりが意識して逃げ回っているうちに、親睦会は呆気なく終わってしまった。
(って、そもそも私のこと覚えてないよね…………)
大好物のフルーツタルトもあったというのに。
正直料理の味どころか何を食べたかすら思い出せなかった。
同期の二人と会場を出ると。
ふとデスクにマイボトルを置き忘れていたことを思い出し、オフィスへと戻る。
自席の周りをきょろきょろと見渡していると。
私の上司である渡辺 景子マネージャーが声をかけてきた。
「お疲れー! これ探してたんでしょう?」
渡辺さんの手には、私の猫柄のマイボトルが握られていた。
「あ! すみません。ありがとうございます」
両手で丁寧に受け取って頭を下げた。
「もう親睦会は終わったの?」
渡辺さんはキャスター付きの椅子に、よっこいしょと座りながらそう尋ねた。
「はい、今終わったところです」
「私、途中で仕事入っちゃって抜けて来たのよー。もしよかったら、大会議室の後片付けお願いしてもいい? 明日朝イチであの部屋使うらしいのよ。もちろん、残業代つけちゃっていいからー」
「あ、はい! わかりました」
笑顔で返事をするも。
再び大会議室へと戻ることになってしまった。
私は社内で比較的若いこともあり、業務以外の事なんかもたびたび任される。
しかし、そんなに悪い気はしない。
例え雑用と思える仕事であっても、感謝されると気持ちがいい。
それに、一人暮らしの私にとって残業代はありがたい。
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