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残業が終わり1階のコンビニへ立ち寄ると、ローストチキンとショートケーキを買って、ビルを出た。
冬の澄んだ空気の中では、街路樹のイルミネーションがひときわ輝いて見える。
レジ袋に入ったケーキが崩れないように、ゆっくりバス停へと歩く道。
さっきふと蘇った、幼い頃の夢を思い出していた。
『食べた人を笑顔にできる、パティシエになりたいです』
きっかけは、母を笑顔にしたい一心で作ったホットケーキだった。
私の父はとにかく女癖が悪く、母はいつも声を殺し泣いていた。
当時小学生だった私が、母にしてあげられることはなにもなく。
子供ながらに自分の無力さが悔しかった。
だからせめてと、キッチンに向かい見よう見まねで作ったホットケーキ。
もちろん、できあがりは散々なものだった。
しかし、母は怒るどころか真っ黒にこげたホットケーキを嬉しそうに食べると、泣き腫らした目で優しく微笑んでくれた。
夕日に照らされたあの笑顔がずっと忘れられなくて、パティシエになろうと決めたのに……。
就職先では、気弱で使えない私は空気扱い。
結局、1年で退職してしまった。
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