3.のど飴とサービス残業

1/6
前へ
/287ページ
次へ

3.のど飴とサービス残業

 あれから3ヶ月が経ち。  夏ももう終わろうとしていた8月の事。  2時間の残業をやっと終え、デスクから立ち上がると。  すかさず声をかけてきたのは、マネージャーの渡辺さん。 「あーちゃん! ちょっと帰るついでに、営業部の部長の席に、これ持ってってくれない? 書類の整理に使いたいらしいのよー」  そう言って、有無を言わさぬ勢いで渡されたのは、プラスチック製の書類ケースだった。 「はい。わかりました」  頼まれると断れない性格の私。  今日は朝から、のどの調子もあまりよくないし……。  こんな日は、早く帰りたかったんだけど。  とは言え、気の弱い私にとっては、  頼み事を断るより、多少無理をしてでも引き受けてしまった方が楽ではあるが……。  (…………でも、あの人がいたらどうしよう)  この前の事もあり、どうしても副部長には会いたくなかった。  『副部長がいませんように』と祈りながら、足取り重く営業部へと向かった。
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加