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memory 1
(わぁ、沢山の人。)
蘭家の長女───絃は、あまりの喧騒に思わず縮こまった。
何せここは都。絃が住んでいるところよりも栄えているのは当然だ。
もう何がなんだか、わからない。
道行く人は皆、着物を着ており、華やかなものもあれば、簡素なものもある。
が、どれも目を見張るほどに美しい。
絃は、自分が着ている服をみた。
ところどころ破れてボロボロになってしまった服は、明らかにこの都には似合わないものだった。
そのとき、ドンッと誰かが絃の肩にぶつかった。
「…っ」
バランスを崩して道に倒れこんだ絃を、屈強な男が見下ろしていた。
「ったく、汚ねぇ。気を付けろ!」
罵声を浴びせると、男はその場を去っていった。
じわり、と絃の目に涙が浮かぶ。
周囲の人が、絃を邪魔そうにちらちらとみながら、通りすぎてゆく。
「私ったら、何をしているのかしら…。」
言葉にすると、余計に惨めさが増し、ついには浮かんでいた涙が、ほろり、と一粒落ちた。
(私は何をしにここへ出てきたの。)
心のなかで自分に問いかける。
絃がここへ出てきた理由。
それは遡ること3日前──────。
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