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「絃様の髪はとても綺麗ですね。」
佳弥乃がふわり、と笑った。
「いえ、そんな…。」
長く手入れをしていない髪は、ボサボサでお世辞にも綺麗とは言えない。
「長くて黒髪ですもの。きちんと毎日お手入れすれば、艶がでてさらに美しくなりますわ。」
絃に向けられた彼女の目から、ただ純粋にそう思ってくれていることがうかがえる。
「出来ました。」
佳弥乃が、櫛で絃の髪をとくのをやめた。
「ありがとうございます。佳弥乃さん。」
「お礼を言われるなど、とんでもないです。明日は髪を結いますので、楽しみにしていてくださいね。」
ふふ、と上品に笑う佳弥乃に絃も笑みを返す。
ふと、佳弥乃が微笑みながら時計を見た。
「そろそろお時間でしょうか。お部屋に行かれます?」
問いかけに絃は頷くと、立ち上がった。
「やはり、紅色にして正解でしたね。とてもお似合いですよ。」
佳弥乃がにこりと笑って、絃が着ている着物を見ている。
「ありがとうございます。」
佳弥乃の言葉は、絃の心にすっと入ってくる。
誰も傷つけない、優しい言葉。
彼女の心は、きっととても綺麗なのだろう。
ふんわりと包み込むような笑みを見せる佳弥乃とともに、絃は座敷をあとにした。
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