8人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
大広間に、使用人がずらりと並んで頭を下げている。
「顔をあげろ。」
一言指示を出すと、佐伯に続いて皆が顔をあげた。
「おはようございます、紫月様。」
使用人の声がピタリと揃う。
その様子を戸の外でうかがっている人物の気配を感じた。
「誰だ。」
問うと、気配の中に怯えがまじった。
佐伯に、戸を開けるよう促す。
佐伯が戸を開けると、現れたのは、紅色の着物を着て、黒髪を軽く結った女性。うっすらと化粧も施されている。
「遅くなり、申し訳ございませんでした。」
その女性の隣にいた佳弥乃が、頭を下げる。
佳弥乃が側にいるということは、まさか。
「絃、か…?」
思わず紫月が問いかけると、女性は口を開いた。
「…はい。絃です。このような上等なお着物をありがとうございます。大切に着させていただきます。」
絃は、少しばかり口元に笑みを浮かべる。
昨日とはまるで別人のよう。
酷い仕打ちを受けていたとは思えないようだ。
「絃様、お綺麗ですよ。」
佐伯が微笑む。
「いえ、そんな…。でも、ありがとうございます。」
まだ手足は細く健康的ではないが、昨日よりは大分良くなったのではないかと思う。
あとは、その心の傷に紫月が寄り添うだけだ。
「絃。朝食にしよう。」
「は、はい。」
──何があっても守る。儚くて、すぐに消えてしまいそうだから。
今までに感じたことのないこの気持ちは、何だろうか。
知らぬ感情に紫月は戸惑いつつも、絃に包み込むような笑みを向けた。
最初のコメントを投稿しよう!