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memory3
「おはようございます、絃様。」
「佳弥乃さん。おはようございます。」
絃が紫月と出会って一週間が過ぎた。
まだ、とてつもなく広いこの屋敷での生活には慣れていないけれど、佳弥乃をはじめとする何人かの使用人たちとは少し打ち解けることができた。
皆、余所者の絃に優しく接してくれるので、逆に悪いような気さえしてくる。
「絃様!おはようございます!」
明るい声に振り向くと、ここの使用人の都世が、こちらにかけてくるところだった。
都世は、数日前に知り合った、16歳の使用人だ。
今日の都世は、薄黄の地に、沢山の花々が咲き乱れている着物を着ている。
肩までの薄茶の髪を、ゆるくサイドで2つに結い、リボンをつけていた。
無邪気さを感じさせる可愛らしい笑顔を見せる都世を、絃は羨ましく思ってしまう。
きっと、自分が同じ格好をしたとしたら、見るに耐えない有り様になりそうだ。
「都世、はしたない真似はおやめなさい。静かに歩くということができないの?」
佳弥乃がたしなめると、都世は舌をペロッと出した。
「すみません、佳弥乃さん。絃様に、はやくご挨拶をしたくて。」
「その気持ちは十分に理解するわ。でも、屋敷を走ると危ないわよ。気を付けなさい。」
「はい、佳弥乃さん。」
反省の色を見せる都世に、佳弥乃はにこやかに笑いかけた。
「分かったならいいわ。さぁ、絃様の準備を手伝ってね。」
「はい!」
都世は歯を見せて笑いながら頷いた。
「絃様、準備しましょう!今日は大事な大事なおデートの日、ですからね!」
「都世さんっ…!?」
絃が声をあげると、都世はいたずらっぽく笑う。
「あれ?違いましたっけ?今日は紫月様とお出掛けになると聞いておりますが。おデートではないのですか?」
「こら、都世。そこまでにしなさい。」
顔を赤くする絃を見て、佳弥乃が口を挟んだ。
「あはは、すみません。」
絃はまたも舌を出してペコリと頭を下げた。
佳弥乃のおかげで、顔の火照りがだんだんとひいていくのを感じる。
「さぁ、絃様。準備をなさってください。」
「はい。」
佳弥乃の言葉に頷き、絃達は部屋に向かった。
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