memory3

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*** 「───都へ行ってみないか。」 女性を誘う、ということをしたことがない紫月(しづき)は、心が浮いているような、ふわふわとした不思議な感覚のまま、その言葉を口にすることとなった。 「…私、ですか?」 目の前にはお前しかいないのに、と思いながら、紫月は目を丸くする(いと)を見つめる。 行ってみたい、という気持ちがその目からよく伝わってきた。 「都へ行く用があってな。少しばかり付き合ってはくれないか。」 「私でよろしければ…。」 おずおずと口を開く絃。 「では、明後日の昼、出掛けよう。」 「…はい。」 そこへ、佐伯(さえき)が入ってきた。 「すみません、偶然聞こえましたので。明後日の用意、使用人一同、よりいっそう力をいれて頑張りますね。」 にんまりする佐伯に、嫌な予感がする。 紫月は佐伯をキッと睨んだ。 「余計なことはするな。あと、その気色悪い笑い方はやめろ。」 「わたくし、嬉しいのでございます。紫月様がそのように女性の方をお誘いになるのは初めてのことですから。」 「佐伯、いい加減にしないと容赦しないぞ。」 照れくさいのと恥ずかしいのとで、紫月はますます目を細め、ぎゅっと佐伯を睨む。 「これは、失礼致しました。」 そう言いながらも佐伯はなおも気色悪い笑みを浮かべている。 もう、放っておこう。 「では、そういうことで頼むぞ。」 「は、はい…。」 絃が頷いたのを確認すると、紫月は部屋をあとにした。
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