memory3

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「準備できたか。」  紫月(しづき)から声がかかったのは、ちょうど支度が終わった頃だった。 「は、はい。」 緊張で少し声がうわずる。心臓がばくばくと音をたてているのが分かり、(いと)は顔を強張らせた。 「いってらっしゃいませ、紫月様、絃様。」 玄関で佐伯(さえき)佳弥乃(かやの)が見送りをしてくれる。 佐伯も佳弥乃もにこやかに笑ったまま、一度頭を下げた。 「行ってくる。」 「行ってまいります。」 挨拶をして、屋敷を出た紫月についていく。 カランコロン、と下駄の音を響かせて歩きながら、絃は少し前方を行く紫月を見遣(みや)った。 紺色の着物の地に紫色の帯を締め、淡く紫がかる髪を結っている。 さらさらと癖のない髪が揺れ、紫月の魅力をよりいっそう引き出していた。 ふと、紫月が振り返った。 背中だけでも美しかったものを、正面から見るとあまりの美しさに絃は思わず息を呑んだ。 「絃。どこか、行きたいところはあるか?」 「…えっ?」 どうしてだろうか。用があると言ったのは、紫月の方だというのに。 絃が考え込んで沈黙していると、紫月は少し顔を赤らめ、視線をそらした。 「いや、用があると言ったのは、嘘ではないのだが。それよりも、私がお前と一緒に出掛けたかっただけなんだ。」 それを聞いた途端に、絃の頬も赤く染まる。 都世(とよ)の言っていた『デート』という言葉が頭に浮かび、絃はますます顔に熱が集まるのを感じる。 「だから、今日はその、二人で楽しまないか。」 ふわり、と微笑む紫月に、絃はやっとのことで頷いた。 「では、行こう。」 紫月が絃の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩く。 二人は肩を並べ、都へと歩いた。
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