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「九重様、ようこそいらっしゃいました。あら、そちらの方は?」
紫月の用がある、『小物屋やよい』にて。
ニコニコとする女性の視線が絃に向けられた。
「あ、あのっ。」
──何と答えればいいのだろう。
返答に困る絃の横から、紫月の声がした。
「私の連れだ。」
紫月の言葉を聞いて、女性はますます笑顔を浮かべた。
「あら、珍しい。九重様が佐伯さんではなく女性の方を…。」
そう言いながら女性は店の奥から包みを持ってきた。
「こちら、頼まれていたものです。」
「ああ、感謝する。それと、この者に合うものを選んでくれないか。値段は気にせず良いものを選んでくれ。」
「分かりました。」
紫月は絃を見て笑う。
「絃。好きなものを選べ。私は少し、外を歩いている。ゆっくりしているといい。」
「え、あのっ!?」
あっという間に絃は取り残され、紫月の姿は見えなくなった。
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