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「わたくし、この店で小物を売っております、弥生と申します。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
女性──弥生が笑顔のまま問いかけてくる。
「蘭絃と申します。」
絃が答えると、「では選びましょうか。」と言って弥生は早速、髪飾りが置いてある場所を探り出す。
「絃様。何かお好きなお花があったりしますか?」
「えっ?」
「絃様、とても綺麗な黒髪ですから。何か髪飾りがあると、より美しいなと思いまして。」
屈託のない笑顔を見せる弥生。
「どのお花がよろしいですか?」
訊かれるまま側に寄り、目を通していると、1つの髪飾りに目が留まった。
「こちらは、糸括りという桜の1種です。花言葉は『精神美』。絃様のお名前が入った桜ですね。」
弥生が説明をしてくれる。
絃はそろり、とその髪飾りを手に取った。
──綺麗。
淡紅色の花が、まるで糸で括ったように重なって、束になっている。
「これが、いいです。」
はっきりと、口にした。
絃の言葉を聞くと、弥生はにこりと笑う。
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