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考え込んでいると、外から戻ってきた紫月が店の中に入ってきた。
それを見て、弥生がゆっくりと口角をあげる。
「あら、お戻りになられましたか。」
「ああ。」
紫月は一言返事をすると、絃の頭についている飾りに目を遣った。
「…桜、か。似合うな。」
ポツリとそう、一言。
それだけで、絃の頬は淡く桃色に染まる。
その様子を見て、弥生が笑みをこぼした。
「糸括り、というのですよ。絃様の牡丹のお着物ともよく似合っていますわ。」
そう言われて、紫月は絃の着物に視線をやった。
淡緑の地に、牡丹が咲き誇っている着物。
瑠璃のような紺色に近い深青の地に、紅の花枝模様が入った帯を締めている。
──美しい。
着物に身を包み、品よく座る彼女は、可憐で儚く、淑女と呼ぶにはじゅうぶんすぎるほどだった。
「絃はさきに店を出ていてくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
紫月の言葉に絃は頷くと、店をあとにした。
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