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店を出ると絃は、辺りを見回した。
ボロボロの着物を着て、道に倒れたことを思い出す。
あれからほんの少ししかたってないというのに、今はこのような着物を着て紫月と買い物に来ている。
天と地ほどの変わりように、夢なのではないか、と疑ってやまないのも仕方がない。
「…はぁ。」
ため息をつく。やはり、都の喧騒は絃には合わない。
人で溢れかえる場はあまり好きではないな、と思いながら視線をめぐらせていると。
ふと、茶店に目が留まった。
静かに近寄ってみると、ガラスの中に、数々の菓子が並んでいる。
──憧れていた。
来客のときに出されていたお菓子。家族で茶会をするときにも、必ずあったお菓子。
口にしたら、どれほどに甘いのだろう。
食べる者誰もが顔をほころばせ、幸せそうな顔をする。
それだけで、美味しいものだということは、すぐにわかった。
1度でいいから、口にしたい。
「はっ、いけない。」
つい見惚れてしまった。あまりにも素敵で。美味しそうで。
絃は慌てて、『小物屋やよい』へ戻ろうと、体の向きをかえた。
その時。
ドンッ
絃の肩が誰かとぶつかり、絃は地面へ倒れこむ。
「すみません!」
真っ青になって顔をあげると、絃はその目に映った人物に、絶句した。
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