8人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
***
──ゆっくりと意識が浮上する。
ぼんやりとした視界の中、都世の顔が目に映った。
「ああ、絃様っ。よかった…。」
そう言って安堵を浮かべる都世。
(…私はこんなところで何を?確か、九重さんと都へ出掛けて…。)
──そうだ、母に会ったのだった。それで、無理やり引っ張られて…。
「こ、九重さんはっ!?」
「今はお仕事に出掛けておられます。」
都世が落ち着いた表情で告げる。
「そうですか…。」
正直なところ、絃の記憶は紫月が目の前に現れ、母と口論になったところで途絶えている。
あとからさきのことは、何一つ覚えていないのだ。
どうやってこの屋敷に戻ったのか。母とのことはどうなったのか。
だが、紫月がいなければ訊くことすらできない。
少し肩を落とした絃に、都世がにこやかに笑いかけた。
「佳弥乃さんをお呼びしますね。」
そう言って部屋を出る都世。
最初のコメントを投稿しよう!