memory3

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まもなくして佳弥乃が現れた。 「絃様。お目覚めになったのですね。」 微笑む彼女は、相変わらず美しい。 そう思って佳弥乃を見ていると、髪飾りを持っていることに気がついた。 「その髪飾りって…」 絃が言い終わる前に、佳弥乃が髪飾りをすっと差し出した。 まるで、宝物を扱うような仕草。 「紫月様から、汚れてしまって申し訳ない、と。」 おそらく、紫月が持ち帰ってくれたのだろう。 受け取ると、少し土で汚れていた。 先程佳弥乃が、汚れてしまって申し訳ない、と紫月の言葉を言ったが、謝らなければならないのは絃の方である。 せっかく買ってもらったものを、こんなにも早く汚してしまったのだから。 それに、せっかくの買い物だったのに、母との見苦しい姿まで見せてしまった。 ──紫月のことだ。きっと絃が謝っても、なんてことない、と微笑んでくれるだろう。 だが、記憶が途切れる寸前、母が紫月に罵声を浴びせていた気がする。 傷つけてしまったことは明らかだ。 「はぁ。」 深くため息をつくと、佳弥乃は「あら、まあ」と言って首をかしげた。 「どうされたのですか?」 「私、九重さんに迷惑をかけてしまったんです。早くお詫びしなければと思って。」 肩を落とすと、佳弥乃がふわりと笑った。 「紫月様は、もうすぐお帰りになられますよ。今日は、大した用ではなさそうでしたから。」 「…そうですか。」 そう言って、絃は布団から出ると、鏡を見た。 少し乱れた髪を整え、髪飾りを慣れない手つきでつける。 「どう、でしょうか。」 自分でつけると、なんだか上手くつけられていない気がして、佳弥乃に問う。 「お綺麗ですよ。糸括りでしょうか。桜は、紫月様のお好きな花ですので、大変お喜びになりますね。」 「…そうなんですか!?」 桜が、紫月の好きな花だったとは。 『…桜、か。似合うな。』 ふと、紫月の言葉がよみがえり、絃はまた頬に熱が集まるのを感じる。 (何を考えているの。九重さんはお優しいから、お世辞を言ってくださっただけなのに。) 言い聞かせるのに必死になっていると、佳弥乃が眉を寄せた。 「お顔が赤いですよ。もう少し休まれてはどうですか。」 「だ、大丈夫です!ご心配なく…!」 「そうですか。無理はなさらないでくださいね。」 そう言うと、佳弥乃は部屋をあとにする。 絃は紫月の帰りを、部屋で静かに待つことにした。
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