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「大丈夫か。」
俯く絃の頭に、声が降ってきた。
顔をあげるとそこには、整った顔立ちの中性的な男が立っていた。
紫がかった長い髪が、さらさらと揺れている。
絃は、その美しさに思わず目を見張った。
「おい、大丈夫かと聞いている。」
返事をしない絃を見て、男は少し、綺麗な眉を寄せる。
そこでようやく絃は、話しかけられていると気づいた。
「…はい。大丈夫です。」
返事をすると、スッ、と手が差しのべられた。
「立てるか。」
本当に手をとっていいのだろうか、と絃は困惑しながらも、おそるおそる手を握る。
(冷たい…。)
そう思った瞬間、絃の体は、男に引き上げられていた。
立ったことで、男の顔がぐんと近くなる。
切れ長の目に高い鼻、薄い唇。
どのパーツをとっても劣らない、完璧な美貌だった。
「足を怪我しているな。」
そう言われて足を見ると、確かに血が滲んでいた。
美貌の男を前にしてそれどころではなく、言われるまで気づかなかったが、指摘された途端、ズキン、ズキンと足首が痛むのがわかる。
倒れたときに捻ったらしい。
「すぐ近くに私の家がある。そこで少し休むといい。」
考える暇もなく、絃の体は、簡単に抱き抱えられていた。
「あの…!?」
突然のことに、思わず声をあげる。
「その足で歩くのは困難だろう。多少の羞恥は我慢してくれ。」
そう言うと男は、ゆっくりと歩きだした。
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