memory 1

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*** 「大丈夫か。」 俯く(いと)の頭に、声が降ってきた。 顔をあげるとそこには、整った顔立ちの中性的な男が立っていた。 紫がかった長い髪が、さらさらと揺れている。 絃は、その美しさに思わず目を見張った。 「おい、大丈夫かと聞いている。」 返事をしない絃を見て、男は少し、綺麗な眉を寄せる。 そこでようやく絃は、話しかけられていると気づいた。 「…はい。大丈夫です。」 返事をすると、スッ、と手が差しのべられた。 「立てるか。」 本当に手をとっていいのだろうか、と絃は困惑しながらも、おそるおそる手を握る。 (冷たい…。) そう思った瞬間、絃の体は、男に引き上げられていた。 立ったことで、男の顔がぐんと近くなる。 切れ長の目に高い鼻、薄い唇。 どのパーツをとっても劣らない、完璧な美貌(びぼう)だった。 「足を怪我しているな。」 そう言われて足を見ると、確かに血が滲んでいた。 美貌の男を前にしてそれどころではなく、言われるまで気づかなかったが、指摘された途端、ズキン、ズキンと足首が痛むのがわかる。 倒れたときに(ひね)ったらしい。 「すぐ近くに私の家がある。そこで少し休むといい。」 考える暇もなく、絃の体は、簡単に()(かか)えられていた。 「あの…!?」 突然のことに、思わず声をあげる。 「その足で歩くのは困難だろう。多少の羞恥は我慢してくれ。」 そう言うと男は、ゆっくりと歩きだした。
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