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コンコンと扉ががノックされた。
「佐伯さん、よろしいでしょうか。」
女性の声が聞こえた。
「どうぞ」
佐伯が返事をすると、扉が開き、着物に身を包んだ綺麗な女性が現れた。
「紫月様がお待ちになっておられます。ご案内しますので、準備が出来次第、おっしゃってください。」
そう言って床に手をつき、美しい座礼をする。
絃は佐伯を見た。
佐伯が女性に指示を出す。
「終わりましたので、紫月様のお部屋に。」
「承りました。では、絃様。」
「は、はい。」
この家で迷子になったら、きっとぬけ出せないのだろうな、と思いながら、どこまでも続く廊下を女性と一緒に歩く。
と、女性が口を開いた。
「絃様。わたくし、佳弥乃と申します。どうぞ、よろしくお願い致します。」
凛としていて、心地よい響きの声は、聞いていて全く不快にならない。
今まで浴びせられていた罵声や怒声との違いに、思わず涙が出そうになった。
「い、絃様?す、すみません!そういうつもりではなかったのですがっ…。」
その様子を見て、佳弥乃が慌て出す。
「ち、違うんです!ただ、嬉しくて…。」
「え?」
「私、家族からそういう、優しい声を聞いたことがなくて。だから、あまりの違いについ…。」
「そう、だったんですか。それは、辛い過去をお過ごしだったのですね…。」
話していると紫月の部屋の前に着いたようだ。
佳弥乃が扉をノックした。
「紫月様、佳弥乃でございます。絃様をお連れしました。」
「入れ。」
一言返答があった後、佳弥乃がガチャリと扉を開けた。
そして絃に、部屋に入るように促す。
「では、わたくしはこれで失礼します。」
絃が部屋に入ったのを見て、佳弥乃は一礼をして扉を閉めた。
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