偽りの旅路で

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 まるで牢獄のようだと、ユーリアは感じた。  華美とは言い難い馬車の内装は、過剰な装飾を誇ることで権力を示したがるレスラ国の貴族とは程遠く、相手が異国の民であることを改めて認識する。  黒革で張られた座面を指で撫でると、その仕草に気づいたか、対面に座っていた女騎士が問うた。 「なにか、不具合が?」 「いえ、そうではないのです。珍しくて」  思わず本音が漏れて、慌てて口を噤む。馬車が珍しい、だなんて、『伯爵令嬢』にあるまじき発言だ。  取り繕おうとするユーリアに、騎士は得心がいったように頷きを返した。 「そうですね。本来、座面に使われるのは柔らかな素材なのでしょう。しかし、我々は戦場に赴きます。土や砂が入り込むことも多いため、こちらのほうが都合がいいのですよ」  汚れが付着してしまえば、座面に張られた布地すべてを取り換える必要が出てくる。そのため、埃が払いやすい革張りが多いのだと告げ、ユーリアも頷いた。 (たしかに、掃除のしやすさは大切)  食事の際、スープを一滴こぼしただけで不機嫌となり、己の失態を給仕になすりつける。サヴォア伯爵の娘フリエラは、儚げな外見とは裏腹にひどい癇癪持ちだ。汚れたクロスを洗うのは、ユーリアの仕事だった。 「慣れぬ文化が多く、気苦労をおかけするかもしれません。ですが、我々は貴女を歓迎しますよ、フリエラ嬢(・・・・・)」  あたたかな笑みを向けられ、ユーリアは震える手に気づかれないよう祈りながら、微笑みを返した。
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