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 雅彦の家は経済に恵まれず、親からもらった古い文房具で固めていた。  高島は裕福な家庭で、当時流行していたキャラクターグッズで文房具を固めていた。雅彦の文房具は古臭いとケチを付けていた。  当時、変身ヒーローがブームで、ビデオデッキのない雅彦は親が購入したテレビ雑誌で情報を手に入れていた。学校へ雑誌の切り抜きを持ち込んで休み時間に模写をしていた。絵は特徴を捉えていた。  雅彦は次第に模写に留まらず、テレビ雑誌に書いてあった設定を元に、独自の設定を加えたオリジナルのヒーローを書きはじめた。  高島は親が購入したビデオデッキでビデオを録画し、時に友人達を呼んで上映会をしていた。何度も見ていくうち、徐々に細かい演出や構成が頭に入り、良し悪しを見極める力が付いていた。  雅彦が高島に絵を見せると、高島はわずかな粗でも文句を言い、友人達も酷評してきた。文句の多さに耐えきれずに怒り、反論した。  高島は当初、友人達をなだめていたが、次第に影響を受けて文句に加担していた。悪口合戦に突入すると、止める者は誰もいなくなっていた。  互いの興奮は最高に達した。高島は大学ノートからヒーローを描いたページを破った。  雅彦や友人達は高島の行動にあ然とした。  高島は破ったページを丸め、ズボンのポケットに入れて席に戻った。  雅彦は状況を理解できず、ぼう然としていた。泣く気も反論する気も、反発して暴れる気も沸かなかった。何もかも失った感覚に陥ったのは、下校で一人になった時だった。湧き上がる感情に潰れ、頭が真っ白になるまで泣き崩れた。  翌日から雅彦の体が重くなり、布団から出るのを拒絶した。父親は文句を言って動かない雅彦を毎日殴っていたが、数日もすると何もしなくなった。  雅彦が布団から出る程度に回復した頃、親は転校を提案した。雅彦も今のままでは未来がないとわかっていた。了承し、別の学区の学校へ転校した。誰も何も触れず、絵を描いては純粋に褒めてくれる環境だった。時と共に順応していった。
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