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4)
同日の夜、雅彦は居間で洋介と食事をしていた。テレビではタレントがクイズでとぼけた回答を出し、笑いを誘っていた。
洋介はタレントの回答に笑っていた。雅彦は笑いの意図が理解できずにビールを飲みながら酒のつまみを突いている。
「面白いか」雅彦は洋介に尋ねた。
洋介はテレビに集中していて、雅彦の質問を聞いていない。
「うちの地元でヒーローを作る話があるの、知ってるか」
洋介は雅彦の方を向いた。「ウワサなら」
「河川敷で日曜に練習してるんだ、近々決起する」雅彦はタバコを手に取り、吸い始めた。周囲に紫煙の匂いが充満する。「連中の一人が俺に文句を言っていた奴でな。デザインを描いてくれって頭を下げたんだよ」
紫煙と共に匂いが洋介の元に届いた。洋介は不快な表情をした。
「俺をいじめていた奴が、自分達でできないからと頭を下げる。痛い目に合わせておきながら、自分が駄目になった途端に他人にすがるなんてな、人間ってのは都合のいい生き物だ」
洋介は食事を早く食べ進めた。
「俺だって大人だ、腹でいい気味だと笑ってもこらえて頼みを受け入れてやったよ」雅彦は笑った。
洋介は食事を終えた。
「最近、ヒーローで町おこしする奴が増えたが、成功している地域はない。俺に頭を下げた奴に世間の厳しさを、いい大人が夢を見るなと教えてやらないといかん」
洋介は食器を持って席から立ち、慌ただしくキッチンに向かった。
雅彦はタンブラーに残った酒を一気に飲み、皿に手を伸ばした。酒のつまみが少なくなっていた。席を立ち、からのタンブラーと皿を持ってキッチンに向かった。洋介の姿はなく、食器が無造作に置いてあった。食器を洗い、書斎に入ると照明のスイッチを付けて机に向かった。
机には描きかけのイラストが載ったスケッチブックが置いてある。
雅彦は棚に置いてある大学ノートを手に取って開いた。変身ヒーローの落書きが、千切れているページの次に書いてある。絵を眺め、画用紙に改めて落書きのヒーローを書き始めた。曲線が多く、地域のマスコットに近い造形をしている。できあがったヒーローの絵に笑みを浮かべた。
翌日、雅彦は書斎に置いてある画用紙とノートに目をやると、ノートを閉じて一通りの準備をして居間に出た。
洋介は食事を終えていた。
雅彦は高島が昨日言っていた内容を確かめるため、外に出た。
洋介は雅彦がヒーローに関わっているのに興味を持ち、書斎に入った。
書斎の窓はカーテンが引いていて、入る光は薄かった。
洋介は机に近づいた。イラストの載った画用紙とメモが散らばっていた。端にはヒーローの絵本が置いてある。絵本の写真は色があせ、端が曲がっていた。眺めていくうち、1枚のイラストが描いてある紙に目を向けた。
イラストは既存のヒーローと異なり、曲線と主体としたヒーローの絵だった。
洋介は新鮮味を覚えてイラストを描いた紙を手に取って眺めた。暫くして紙を持って書斎から出た。
雅彦は、翌日から家に戻って日課を終えると、書斎に入って絵を描く日々になった。
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