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6)
翌日、雅彦はさえない表情と重い足取りで工場に向かった。取り扱う本の量は平均より多かった。
秋元は雅彦の動きが鈍いのに気づいた。「調子が悪いな、風邪でも引いたか」
「今まで通りだ」雅彦は秋元に笑みを浮かべ、作業を続けた。
時計の針が正午を示した。
壁に備え付けてあるスピーカーから、休憩のブザーが鳴った。
従業員達は機械を止め、確認してから工場を出た。
雅彦も外に出て、近くにある定食屋に入った。
定食屋の席は混んでいた。
雅彦は空いている席に着いた。まもなく店員が駆けつけてきた。店員に注文を頼むと一息ついた。店員が去ってすぐ、胸ポケットから鳴り響いた。スマートフォンを取り出し、液晶画面をなぞって耳に当てた。「もしもし」
「俺だ、高島だ」高島の声がスピーカーから聞こえた。
「用は」
「来週の予定だが、用事があるからデパートの7階にある喫茶店に変更してくれ」
「ヒーローショーでも見るのか」
「知っているのか」
雅彦は鼻で笑った。
「わかっているなら早い。11時半に7階の喫茶店だ。飯代ならワビを兼ねておごる。じゃあな」
通話が切れた。
雅彦はスマートフォンを胸ポケットに入れ、替わりに手帳を取り出して書き込んだ。書き込みを終えると元の場所にしまった。
店員が雅彦の元に定食を運んできた。
雅彦は定食を食べた。普段通りの食べ慣れた味だった。手早く食事を終えると席を立ち、会計を済ませて定食屋を出た。
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