優しく積もる

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
初めて会ったのは、塾へ行く途中の交差点。雨の日だった。 「これ、よかったら使って」 あなたは私にタオルを渡してくれた。洗ったばかりのタオル。 そして急ぎ足で歩道を歩いて行った。 あなたの後ろ姿を目で追いながら、泥水を跳ね飛ばされたスカートを拭いた。 次にあなたに出会ったのも、最初と同じ交差点だった。見知らぬオニイサンが声を掛けてきて、誘いをうまく断れずに困っていたとき。 「ごめん!待たせちゃったね。遅れそうだから早く行こう!」と腕をひっぱられた。 振り返ると、あなただった。 「アイツが諦めるまで、しばらく一緒に歩こうか」貴方は笑って言った。 「あ、ありがとうございます」助けられた。ホッとした。 「あの、この前お借りしたタオル、まだお返ししてなくて……」 「ああ、別にいいんだけど……」 そう言ってから立ち止まり、私の方を向いて言葉を続けた。 「でもまた逢える方がいいから、かえしてもらおうかな?」 「俺、この先のバーガーショップでバイトしてるんだ。多分、木曜日のこの時間には、またあの交差点で会えるんじゃないかな?」 次の木曜日、タオルを返した後、二人並んで歩いた。ほんの5分ほどだったけど。 「君はもうすぐ受験なんだろ? 入試が終わって、落ち着いたらゆっくり逢って欲しいな。それまで待ってるから」 それからの木曜日には、交差点から5分間だけ一緒に歩く。 積み重ねている内に、木曜日を心待ちにするようになっていた。 もう少し一緒にいたい。 もう少しお話ししたい。 もう少しだけ。 この優しい積み重ね。 これって、恋なのかな? (完)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!