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初めて会ったのは、塾へ行く途中の交差点。雨の日だった。
「これ、よかったら使って」
あなたは私にタオルを渡してくれた。洗ったばかりのタオル。
そして急ぎ足で歩道を歩いて行った。
あなたの後ろ姿を目で追いながら、泥水を跳ね飛ばされたスカートを拭いた。
次にあなたに出会ったのも、最初と同じ交差点だった。見知らぬオニイサンが声を掛けてきて、誘いをうまく断れずに困っていたとき。
「ごめん!待たせちゃったね。遅れそうだから早く行こう!」と腕をひっぱられた。
振り返ると、あなただった。
「アイツが諦めるまで、しばらく一緒に歩こうか」貴方は笑って言った。
「あ、ありがとうございます」助けられた。ホッとした。
「あの、この前お借りしたタオル、まだお返ししてなくて……」
「ああ、別にいいんだけど……」
そう言ってから立ち止まり、私の方を向いて言葉を続けた。
「でもまた逢える方がいいから、かえしてもらおうかな?」
「俺、この先のバーガーショップでバイトしてるんだ。多分、木曜日のこの時間には、またあの交差点で会えるんじゃないかな?」
次の木曜日、タオルを返した後、二人並んで歩いた。ほんの5分ほどだったけど。
「君はもうすぐ受験なんだろ? 入試が終わって、落ち着いたらゆっくり逢って欲しいな。それまで待ってるから」
それからの木曜日には、交差点から5分間だけ一緒に歩く。
積み重ねている内に、木曜日を心待ちにするようになっていた。
もう少し一緒にいたい。
もう少しお話ししたい。
もう少しだけ。
この優しい積み重ね。
これって、恋なのかな?
(完)
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