溺愛師匠

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少し肌寒くなって来ました。 並木の落ち葉も風に舞い上がり、道端の隅にガサガサと音を立てております。そんな中、私は先生の原稿を赤坂まで届け、ついでに頼まれたお遣いを済ませ、先生の所へ足早に戻っておりました。 冬になる手前の短い季節は空もずっと曇っている様な気がして、早く帰ろうという気になってしまいます。 「何処かで焼き芋なんぞ売ってないかな…」 先生は私の出掛けにそう呟いておられました。 これは暗に「焼き芋を買って来い」という事なのですが、幾らか探しましたが、何処にも売っておりませんでした。 探していない時は結構大八車を引いた焼き芋屋を見るような気がするのですが、探すと見つからない。 これは焼き芋に限らずの事ですが、本当に先生の所望されるモノは厄介なモノが多いのです。 夏には、 「濃い水羊羹が食ってみたいな」 と言われ、白井さんを二人で汗だくになりながら府内を走り回ったりもしました。
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