200人が本棚に入れています
本棚に追加
そして映像が途絶えたスマホを俺の手から成亮さんが奪っていく。彼の顔は真っ赤だったし、恐らく、俺の顔も真っ赤だった。
始まりは『責任って大袈裟な……実はなんもなかったてことない?』という俺の確認に『そのときの映像を私は残していたようだから一緒に確認しようか』と成亮さんが答えたからであり、その結果はこれだった。
当時、俺の理性は遥か彼方にとんでいて、それにつられて彼も理性がとんでいたのが大変よくわかる映像で、ようするにそこから三日間シッポリ楽しんでたであろうことがよくわかる映像だった。
彼は、真っ赤な顔で「も、もっと理性的な映像だと思ってて……」ともごもごと言い訳をする。
「い、一応、その、番にするときの映像も、その、残ってはいるようなんだが……」
「……」
「そうだな、見ないよな! すまん! 本当にすまない!」
彼は、俺の足元で土下座した。
「理性がないなりに言質をとろうと、私は、……結果的に、とんでもない映像を……」
「……いや、……それ、外に漏れてないよな?」
「漏れてない。この端末はネットに通じてないものなんだ。だから、誓って! きみの可愛い姿は私しか見ることはない!」
「可愛いかどうかは聞いてないよな!?」
「すまない!」
彼が土下座をしている。その後頭部を見ながら、俺はとりあえず椅子から立ち上がり、椅子をどかし、彼の前に膝をつく。
「成亮さん」
俺は彼の肩をたたいてから、床に額をつけた。
「大変申し訳ありませんでした!」
俺の土下座に彼は慌てて顔を上げた。
「いや、保護しておいて理性がもたなかった私が悪いから……」
「あんな発情しているΩ相手に耐えられるαいないって今日日、小学生でも知ってるわっ! あんな状態で噛めっていわれたら誰でも噛むわっ……どうせ俺から言ったんだろ!?」
「うっ、……そ、れは、その、ヒートの最中は理性がなくなるのだから仕方がないことで、それを真に受けて私がしてしまったことが悪くて……」
「ほら、そうじゃん! あんた、全く嘘がつけねえのな!?」
「うっ、……すまない……」
真っ赤な顔で彼がしょんぼりと肩を落とす。その落ち込むおじさんを見て『可愛い』と思ってしまった。どうも、俺の感性も発情期の間に変化したらしい。
「……成亮さん、二つ確認したいことがあるんだけど」
「なんなりと聞いてくれ……」
衝撃映像を二人で見たせいで、俺は敬語を使う気が失せたし、彼も彼で少しよそ行きの皮が剥がれた気がする。
それでも目の前の彼は、社会人らしくしゃんとしている。顔もいいし、肩書きもあるし、家の様子からして資産もあるだろう。要するに、間違いなくこの人はモテる。貧乏学生の俺とは立場がちがう。
俺は深く息を吸って、覚悟を決めた。
「……あんたさ、結婚してる?」
彼はポカンと口を開けた。じっと見ていたら、はっと気がついたように姿勢を正し「一度もしない。パートナーもいない」と答えてくれた。つまり、俺は浮気や不倫に巻き込まれたわけではない。一つホッとした。
それから俺はもう一つ、腹をおさえて、大事なことを聞くことにした。
最初のコメントを投稿しよう!