陽毬の夢って?

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陽毬の夢って?

「陽毬、朗報があるんだ。iPS角膜の生成技術が確立して、君が二人目の治験者に決まった」  僕の突然の説明に陽毬が驚いた表情を浮かべている。 「えっ? でもiPS治療って、私みたいな進行した病状の回復は難しいって……」 「今まではね。でも今回、ISSの無重量環境で正常角膜の生成に成功したんだ。君への移植が可能になるのは一カ月後の予定だ」  彼女の表情がパッと明るくなる。 「その移植が上手くいったら……私は目が見える様になるってこと?」 「そうだ。完全に視力を取り戻せる。だから視覚障害者(ブラインド)マラソンでのパリのパラリンピック出場を狙うんじゃなくて、オリンピックを狙える筈さ。君の夢が叶うね」  実は僕は複雑な感情を抱いていた。陽毬の伴走者(ガイドランナー)として一緒にパラリンピックへ出場するというのは、今の僕の夢になっていたからだ。でも陽毬の本当の夢は視力を回復させてオリンピックに出場する事だから……。 「……そうか、オリンピックに出場出来るかもしれないのね……」  陽毬は何故か戸惑った様な表情を浮かべている。 「そうだよ。君の夢だったよね?」  うーんと言って彼女が首を傾げた。 「……オリンピックが……今の私の夢なのかな……?」  今度は僕が首を傾げる番だった。 「だって、視力を回復させて、オリンピックに出たいって言ってたよね?」 「うーん、そうけど、今の私の夢は……違うかも……」 「えっ? それはどういう意味?」 「ねぇ、光一。その移植ってパラリンピックの後に変更する事は出来るのかしら?」  未だ僕は彼女の意図を測りかねていた。 「えっと、勿論それは出来るけど。早く視力を回復したくないのかい? せっかくオリンピックに出場するチャンスなのに……」  彼女が首を横に振っている。 「ううん、私の今の夢はオリンピックじゃないわ。光一、貴方とパラリンピックに出場して、一緒にメダルを貰う事よ」  彼女は見えていない大きな瞳で真っ直ぐ僕を見上げていた。
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