二人の夢は?

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二人の夢は?

「えっ? それって陸上を諦めるってこと?」  僕の説明に、このカフェの期間限定ケーキを食べていた陽毬が驚きの表情を浮かべた。 「ああ、何とか箱根駅伝に出場して、卒業後も陸上を続けていきたいと思っていたけど、最後の選手枠を逃してしまった。だから陸上は諦めて医者になるよ。勿論、趣味として走る事は続けるつもりだけど」  その時、僕は帝国大学医学部の五年生だった。僕の家は代々医者一家で両親も開業医だし、僕も幼い頃から医者になると漠然と思っていて帝国大学医学部に入ったんだ。そこで陸上選手になる夢に向かって走り出していたけど、その夢は水泡に帰してしまった。 「私達の夢はどうするの? 一緒にオリンピックに出てメダルを取る夢は?」  僕はゆっくりと首を横に振った。 「残念だけど、僕には君の様な才能は無いと分かったんだ。だけど、これからも君の走りを応援していくよ」  その瞬間、陽毬がテーブルを『ドン』と叩いて立ち上がった。 「私は貴方と一緒に同じ夢に向かって走りたかった。でも貴方がその夢を捨てるんだったら、もう一緒には居られないわ」  彼女は財布を開けると、千円札をテーブルの上に置いた。 「えっ?」  彼女は僕に厳しい眼差しを向けている。 「貴方とは少し距離を置かせてもらうわ。それじゃね」  そう言うと彼女は踵を返してカフェを出て行ってしまった。  その後、彼女とは何度かメッセージのやり取りをしたけど、一度も会う事なく、僕達の関係は自然消滅してしまう。  そう、僕の夢は潰えてしまった。  彼女と一緒に未来に向かって走って行く、そしてオリンピックで一緒にメダルを獲るという大望(アンビシャス)が……。
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