医師となって

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医師となって

 僕は医学部を卒業すると眼科医として帝国大学病院に勤務し始めた。専門は『網膜色素変性症』の治療技術の開発だ。『網膜色素変性症』は日本人の失明原因で緑内障に続く第二位で、未だ治療方法が確立されていない難病だ。現在取り組んでいるのはiPS細胞で網膜を再生し、失明した患者の視力を取り戻す研究だった。この研究は海外の学会でも高く評価され、僕は二八歳の若輩ながらこの分野では日本でもトップの実力だと言われていた。  それと僕にはもう一つ、大切な趣味があった。仕事柄、多くの視覚障害の患者さんと向き合っていた僕は、昔取った杵柄(きねづか)を活かして、視覚障害者(ブラインド)マラソン協会に登録して、伴走者(ガイドランナー)として視覚障害者ランナーのサポートをしていた。一度、走る事を諦めた僕だったけど、こんな形で再び走り出す事になるとは思っていなかった。だけど伴奏(ガイド)をする視覚障害ランナーの方々が本当に生き生きと走っている姿を見ると、僕自身もとても嬉しく感じていた。
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