走り出す二人

医師となって

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　今日も一人暮らしの自宅に帰ると午後十一時を廻っていた。食事は病院で済ませていたので、シャワーを浴びると冷蔵庫から缶ビールを出して、パソコンの前に座る。そのディスクトップ上には一つだけフォルダーが置いてある。そのフォルダー名は『陽毬の走り』。
　陽毬と別れてからもう五年……。でも僕はまだ彼女の事を引きずっていた。だから彼女の記事が出るたびに、その情報を一つのフォルダーに纏めていた。
　陽毬は大学を出ると女子駅伝で頭角を現し、マラソンの世界陸上や東京オリンピックにも出場していた。

　時系列で纏められた最後のフォルダーを開くと、二年前の東京オリンピックの記事をクリックする。
『川橋陽毬さん、東京オリンピック女子マラソンで第五位に入賞！』
　そこにはレースの詳細を解説する記事と陽毬が笑顔で微笑む写真が飾られている。
　しかしこの二年前の記事を最後に陽毬の情報は忽然とスポーツ界から消えてしまう。どうしたんだろう？　と心配しながらも、彼女の連絡先を知らない僕にとって、それ以後の彼女の動向を知る事は出来なかった。