陽毬との再会

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陽毬との再会

 その日は一般診察の勤務日で、僕は病院棟の診察室に居た。研究や手術の合間を縫っての診察は、半年前のテレビ番組で、僕が『網膜色素変性症』の若きスーパードクターだと紹介されて以降、数カ月先の診察予約まで一杯になってしまっていた。  その日の最初の患者さんの診察を終え、二人目は初診の患者さんだった。濵横大学からの転院の患者。その名前を見て愕然とした。 「えっ? 川橋陽毬……って。まさか?」  驚いて生年月日を見ると、陽毬の誕生日と同じだ。急いで濵横大学からの診断データーに目を通した。 「『網膜色素変性症』の発症は三年前、今の両眼の視力は……えっ、0.0015だって? 殆ど見えていないんだ。こんなに急激に病状が進行するなんて」  一般的に『網膜色素変性症』は緩やかに視野狭窄や羞明(しゅうめい)が進み、失明する場合も通常十年程度掛かる。だから陽毬のケースは非常に稀な進行速度だったということだ。 「……それで、走れなくなって……」  陽毬がスポーツ界から姿を消した理由に納得しながらも、あんなにも走る事に(こだわ)っていた彼女の気持ちを想像すると、彼女の深い失望感に胸がギューっと締め付けられた。  ハッと、気を取り直して、机上のマイクのスイッチを押した。 「川橋陽毬さん、第二診察室にお入り下さい!」
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