陽毬との再会

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ーーー  僕はまず視野検査を行った。既に視野狭窄(しやきょうさく)は相当進んでいる事がデーターからも明らかになった。そして広角眼底カメラとOCT(光干渉断層計)で網膜周辺部の状況を確認する。『網膜色素変性症』の特徴的所見である骨小体色素沈着や視神経の萎縮が広範囲に見られる。ERG(網膜電図)の検査でも、明らかに網膜の機能が失陥しているのが分かった。 「陽毬、君の網膜はもう治療が出来ないレベルに色素変性が進んでいる。残念だけど、現状では有効な治療は難しい」  僕の説明に陽毬が驚きの表情を浮かべている。 「えっ? だって、iPS細胞の移植で治るって……」  僕は首を横に振った。 「完全な視力回復の技術はまだ確立できていないんだ。現在のiPS治療はiPS細胞を網膜色素上皮細胞に変化させて、目に注入して移植するんだけど、細胞が生着しても視力が少しだけ回復するだけだ。だから陽毬のレベルの視力を陸上競技が出来るまで回復させるのは難しい」  その言葉に彼女が大きな溜息を吐いた。 「そうか……。簡単じゃないんだ。やっぱり、もう走るのは無理なのね……」  彼女は下を向いてしまった。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。走る事にあんなに(こだわ)っていた彼女の気持ちが、痛いほど伝わってくる。  その時、僕の頭に妙案が浮かんだ。そうだ、彼女がもう一度走り出せるやり方を僕は知っているじゃないか……。 「なあ陽毬、今の君にも、もう一度走り出せる方法があるよ。視覚障害者(ブラインド)マラソンって聞いたことある?」  彼女が両手で涙を拭くと顔を上げた。 「ええ、勿論よ。でも、視覚障害者(ブラインド)マラソンって、自分の走る力だけじゃなくて、伴走者(ガイドランナー)の力も大事なんでしょう? 伴走者(ガイドランナー)を見つけないと難しいのよね?」  その言葉に、僕は口角を上げた。もしかしたら、また一緒に陽毬と走れるかもしれない……。 「ここに良い伴走者(ガイドランナー)が居るよ」 「ここって、光一が伴走(ガイド)できるの?」 「もう二年はやっている。未だ趣味の域を出ていないけど、今度、僕と一緒に走ってみる?」  彼女は驚いた様に僕を見ていたが、うんと言って頷いてくれた。
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