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もう一度二人で
陽毬と再会した翌週の週末、僕達は帝国大学陸上部のグランドに居た。ここのトラックは僕達が大学時代に走っていた懐かしい場所だ。
鮮やかなランニングTシャツに短パンを身に纏ってグランドに現れた陽毬を見て僕は驚いていた。確かに彼女の肌の色は大学時代の綺麗な小麦色でなくて、とても白い。だけど服から覗いている上腕、太腿の筋肉はとても二年間も陸上界を離れていたとは思えなかったからだ。
「陽毬、しっかり体力維持をしてたんだね?」
その問いに彼女が笑顔を向けてくれる。
「ええ、今も毎日ジムに通っているわ。ルームランナーで百キロ以上走っているし。室内ばかりだから日焼けはしてないけど……」
僕は大きく頷いていた。
「それじゃ、タイムも期待できそうだね。はい、右手を出して」
そう言いながら、黄色の紐を輪にしたものを彼女に手渡す。
「あっ、これ伴走ロープ『きずな』ね」
「そう、これで僕が君を伴走するからね。手の振りを合わせるから、脚の動きは二人三脚の要領で。走り出す時はどっちの脚から?」
「うーん、右かな」
「分かった、それじゃスタートは右、左って声を出すからそれに合わせて。走り出したら歩幅は僕が合わせるからね。あとここは反時計周りのトラックだから僕が内側、つまり左側で君をサポートするよ」
彼女が満面の笑顔を向けてくれる。
「分かったわ。早速、走ってみたいわ」
「それじゃ、『きずな』を左手に持ち替えて」
彼女は頷きながら『きずな』を左手に移した。僕は彼女の左側に移動し、右手で『きずな』を握る。
「それじゃ、行くよ。右足から」
「うん」
「はい、右、左、右!」
僕の掛け声に合わせ、二人で走り出した。そして徐々にスピードを上げていく。僕の隣で陽毬が軽やかに走っている。
それは僕の夢の一つだった陽毬と一緒に走って行く事が、もう一度叶った瞬間だった。
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