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Wiedersehen
「──……大好きだったよ。」
そう言って健気に笑う愛しい人の頬に、俺はそっと手を伸ばした。震えそうになる指先に力を入れてやっと、流れ落ちる涙を掬い取る。
俺たちが持つこの苦しいくらいの感情は、"正しくない"ものだ。
どれだけ膝をついて懇願しようと、世界は俺たちを許しはしない。俺たちが結ばれる未来は、どこにも存在しない。
「この先の未来が本当に暗闇になっちゃう前に、もうお別れしなきゃ」
俺だって本当は、わかっている。
けれど、今日まで積み重ねてきた色々な想いがどうしたって胸をついてしまって、痛くて。
「大丈夫。きみは、幸せになれるよ」
そんなの、無理だ。お前がいない幸せなんてありえない。欲しくもない。
「俺が愛するのは、後にも先にもお前ただひとりだ。」
そう告げれば、愛しい人はまたほろほろと涙をこぼした。
「地獄で会おう、アイト」
「⋯⋯っばかだなぁ、モントは」
今日は特別に月が明るい。
その分夜はひときわ深いけれど、それでこそ光が引き立つというものだ。
──この日のことを、俺は一生忘れない。
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