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肩に啄むようなキスを落とされながらそんなことを言ってくるものだから、ちょっとドキッとしてしまったではないか。
これがいわゆる、「きゅんです」というやつなのかもしれない。
少しだけ体勢を変えて、春人の方から琉笑夢の首筋に頬を押し付けてみる。すると、張り付いていた前髪をよけられ、額と目尻にもちゅうと長いキスをされた。
普段は全力で甘えてくる琉笑夢だが、こうして甘やかしてもくれるのだ。
今度は背中ではなく、肩にかけてもらえるシャワーが気持ちいい。まぶたがとろとろと落ちてくる。
(あ、なんか今めっちゃ情事後っつうか……「ピロートーク」っぽいな)
「春、気持ちいい?」
「ん……」
春人は恋人から与えられるぬくもりにほうっと息を吐き、体から力を抜いてさらに体重を琉笑夢に預けた。
こうして横抱きに密着し合い、お互いの気持ちを確かめあう行為に、初めて心が安らいだかもしれない。立ち昇る湯気すらも甘ったるく感じる。
お湯のおかげでさらに濃厚になった琉笑夢の肌の匂いを嗅ぎながら、春人はうっとりと口を開いた。
「るえむー」
「なに」
「もしも、な。オレが俳優とかで」
「? うん」
「誰かとのキスシーンとかがあったらさ。オレも、琉笑夢のこと思い浮かべながらすると思う……ぜ」
春人は、珍しく穏やかな時間にうつらうつらしていた。
していたので、ガァン! と琉笑夢が手にしていたシャワーのノズルをタイルに叩き落とした瞬間、驚きすぎて浴槽の中で飛び上がった。
「は、え、え?」
「──今なんつった」
「なに、なに!? どうした」
「いま、なんつったって聞いてんだよ……」
まさに地を這うような声色だった。あれ、反応が予想と違う。喜んでもらえると思ったのに。琉笑夢を見上げれば目がスゥっと細められていた。
あ、と冷や汗が垂れる。これはスイッチが切り替わる瞬間の顔だ。
止められることなく投げ出されたシャワーの音が反響する中、がっと大きな両手で肩をわし掴みにされてびびり散らかす。
「ひィっ」
「春は」
「は、はい」
「俺以外と……キスは、しねえんだよ……!」
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