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琉笑夢は返事をすることなく、じっと春人を見降ろしたまま動かない。
なんだか様子がおかしい。
「……どした、喉でも乾いたか?」
「──ちがう」
「ん?」
ふるりと、琉笑夢のだらりと下がった指先がわずかに震えた気がした。
「起きたら春が、いなかった……か、ら」
掠れた声に、目を見張る。
「どこ、いったのかと思って」
なんて、虚ろな表情をしているのだろう。
それでも琉笑夢の手はこちらに伸びてくることはなく、力なく垂れ下がったままだ。
似ている、あの日の琉笑夢に。
琉笑夢を連れて少し遠くの大型ショッピングモールに買い物に行った時、琉笑夢が迷子になったことがある。休日ということもあり、予想以上に人が多かった。
人込みが苦手な琉笑夢の気分が悪くなってしまったので、噴水を囲むように設置されている長椅子に座らせて飲み物を買ってこようとした。けれども自販機が遠く、春人もかなり焦っていたせいでどこの長椅子に琉笑夢を置いたのかわからなくなってしまい、探し出すのに時間がかかってしまった。
琉笑夢の方は、なかなか帰ってこないの春人を不安に思ったのだろう、ふらふらと長椅子から離れ、近くのショップへと迷いこんでしまった。
その頃の琉笑夢は9歳だったが、まだまだ華奢で小さかったし、心細そうにきょろきょろと辺りを見回してばかりの琉笑夢に店員も不審に思ったのだろう。
どうしたの? と声をかけてくれていた。
長椅子からあまり離れていない場所だったのですぐに見つかったのだが、春人が慌てて駆け寄っても琉笑夢は抱き着いてくるでもなく、ずっと途方に暮れたような顔をしていた。
ほら、お兄ちゃんが来たよと店員の女性に優しく声をかけられても。
春人が「ごめんな! 待たせて」と手を伸ばしても、だ。
琉笑夢はだらりと腕を下げたまま、ぼんやりと春人を見上げていた。
そして身長が伸び体格もしっかりした今、琉笑夢は春人を見下ろしている。
あの日の迷子だった子どもと、同じ表情をして。
手を伸ばして、触れる直前にびくりと震えた琉笑夢の手を取る。ひんやりと冷たい。
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