1431人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
「もうそんなガキじゃねえよ」
「今でもカバ嫌いだろ」
「……別に普通。この前だって、収録で動物園に行かされた」
「顔、引き攣ってるように見えたけど」
「春の勘違い」
「ふーん」
「なに」
「いーや、ふふ」
琉笑夢から目を逸らすことなく、じっと彼の中で滞留している想いが動きだすのを待つ。
「春、が」
「うん」
「いないのは、怖い」
「……ここにいるのにな」
決壊した感情ごと、抱きしめてやりたくなった。
琉絵夢の手の甲を撫で、頬を撫で、首の後ろをそっと引き寄せて腕の中へと囲い込んでやる。
身長差を埋めるため、ごそごそと琉絵夢がベッドの下へと下がっていき、ぺたりと春人の胸に額を押し当ててきた。
今では抱きしめられる側になったけれども、ここは昔の琉笑夢の寝る時の定位置だった。
琉絵夢はほうっと息を吐き、肩の力を抜いた。
春人の胸の中で、やっと息ができたみたいに。
「春のこと、好きだ」
「うん、知ってる」
「春が好き。春にいが、好きなのに」
「うん」
今の琉絵夢とかつての琉絵夢の境界線が、曖昧なものへとなっていく。
「好きなのに……壊したくて、たまらなくなる」
そろりと春人の背に回された腕が、小刻みに震えている。
「春を、バラバラに壊して……はじめっから俺だけを見る春にいに、したいんだ」
琉笑夢の口調が、どんどんと幼いものになっていく。
「おまえだけを、か」
「うん、春にいの目を、俺以外、何も映さない目にしたい」
春人の背を掴む手にも、力が込められていく。
「春にいの口を、俺の名前しか呼ばない口にしたい。春にいの耳を、俺の声以外、聞こえない耳にしたい……春にいの腕を、俺以外抱きしめないような腕に、したい」
このまましわくちゃになるか、それとも破られるか。どちらにしても、実家を出る前から着続けてよれよれになってしまったスウェットだ。
琉絵夢が落ち着くことの方が、よっぽど大事だった。
「何もいらない。俺、春にいがいれば、いいんだよ」
「そうだったな」
「ペットだっていらないよ」
琉笑夢が肩を上げて、喘ぐように息を吸って、吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!