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「愛くるしい、チンチラも……それ以外も」
──ネズミだろうがチンチラだろうがハムスターだろうがそれ以外だろうが、俺から目移りしたら水槽に沈めるよ。
「うん」
「何もいらないんだ。春が、春にいがいれば」
──なにって……だってこっから出てくるせーし、死ぬまで使い道ねえじゃん。
「うん、うん」
「春しか……」
──なあ、いらねえよな。
──春は一生俺のものでしょ、じゃあ必要ないじゃんちょん切ってもさ。
ぽんぽんと琉笑夢の頭を叩いてやる。
促してもいるし、慰めてもいるし、わかってやれなかったことを悔いてもいた。
「どこにもいかないで、春」
チンチラの致死遺伝子とは。
その遺伝子を持つ個体を死なせてしまう遺伝子のことだ。赤ん坊は腹の中では育たない。育たずに死ぬ。
小さな小さな命が、生きて生まれてくることは、ない。
「春。お願いだから、そばにいてよ」
──いいよ。道子さんってホント可愛いもの好きだよね。春にそっくり。
──あら、逆よ? 春が私に似てるのよ。なんたって私が一生懸命産んだ子ですから。
──あっ、生まれた時の春って2200グラムくらいでびっくりするぐらい小さかったのよ。
あの時の琉笑夢は、道子と楽しそうに会話をしながらまつ毛を伏せてはいなかったか。重ねた手が、強張っていなかったか。
──道子さん、ごめん。俺、さ、春を手放せない。
手を、強く強く握り返されなかったか。自嘲するように、ふるりと首を振らなかったか。
──手放せない、何があっても、さいごまで、春のことを。
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