墓場まで──08

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「……オレだって、夢みてる気分だよ」  出会った頃は、琉笑夢とこんな関係になるなんて思いもしなかった。  こんな平凡な春人でも、琉笑夢にとってはキラキラした存在らしい。  黒髪黒目の男のどこに輝いている要素があるのかはわからないが、他でもない琉笑夢が、春人は琉笑夢にとっての春の光なのだと言ってくれるのであれば。  これからも琉笑夢に好いてもらえるように、キラキラした自分でありたいと思う。琉笑夢が望む、そのままの春人として。  今度は春人の方から手を伸ばして、琉笑夢の頬をそっと手のひらで包み込む。あんなにぷにぷにと丸みを帯びていた頬が、今ではこんなにもしっかりとしている。  ん、と首を伸ばして、吸い込まれそうな青い瞳を見つめながら薄く開いている唇にちゅ、と唇を重ねた。  唇を離しながらぺろりと舐めてやれば、琉笑夢はすぐさまやり返せないほど驚いたらしい。  アーモンド型の目許がほんのりと赤く染まった。 「あ、間抜け面」  きゅっと引き結ばれた赤い唇にそっと笑む。してやったりという気分だった。 「好きだよ、琉笑夢」 「──ずっりぃ」 「なんだよ、おまえだっていっつもちゅーしてくんじゃんか」 「春から口にしてきたの、初めてだろ……ずるい」  琉笑夢はちょっと春人に対する愛が重くて頻繁に爆発してしまう面があるので、ヤンデレだのなんだのと言ってしまってはいるが。  実際は素直なところもあるし、なんだかんだ言っても根はいい子なのだ。 「琉笑夢、おまえスマホのロックナンバー変えたほうがいいぞ」  さらりと流れるように警告してやる。 「え」 「あの番号じゃ、絶対オレ以外にもバレると思う」 「……春、気付いた?」 「うん。でもごめんな、勝手にのぞいて……」  嬉しそうに頬をほころばせた琉笑夢に謝罪が杞憂であったことを知り、琉笑夢に事あるごとに「見てもいいよ」と言われていた意味も確認できた。  あれはきっと、春人への声無きアピールだったのだろう。  何よりもあの日が特別なのだということを、琉笑夢は春人に伝えたかったのだ。  ただ、春人が覚えているかどうかを知ることが怖かったために、直接聞くこともできず、試すようなことばかりを繰り返していたのかもしれない。  寂しがり屋の琉笑夢らしい行動だと思った。  本当にコイツは、堂々としているんだか大胆なんだか強引なんだか甘えたなんだか弱いんだか、そうでないんだか。
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