墓場まで──08

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   今、何か、とんでもない爆弾発言をぶちかまされたような。 「の、の、のぞ……のぞく?」  春人の仕事場を? 野鳥観察じゃなくて?  などと考えたが、いやさすがに都心で野鳥観察はないだろうと心の中で頭を振る。声に出していたら琉笑夢に「野鳥観察とかじじいかよ」なんて確実に突っ込まれていたに違いない。 「うん。仕事場に……何時に着いた、とか。何時に出たとか、そういうのずっと、見てた」  だらだらと冷や汗が垂れてくる。 「春、一昨日の昼も菓子パン買って、食ってただろ……? 表通りのカフェのコーヒーと、あと、からあげも。あそこのコンビニのからあげは脂っこいから、今度は別んとこのにしろよ……」  琉笑夢の形のいい唇から発せられる言葉の数々に思考が停止する。  もう、こんな短時間で人間はここまで汗だくになれるのかと思うくらいには汗だくだ。変だ、春人は普段こんなに汗っかきではないはずなのに。  空調がおかしいのだろうかとエアコンに視線を泳がせたが、もちろん電源は入っていない。さらにカーテンの隙間から差し込んでくる淡い光にだって、そこまでの熱はこもっていない。  一昨日の昼飯の内容をかなり詳細に知られている。なぜ、と考えてそういえば自分のデスクが窓際だったことを思い出してさっと血の気が引く。  そこから通りを挟んで、近場の立派な高級マンションが見えていた。  琉笑夢の言う通りまさに目と鼻の先だ。 「えっ…………と、琉笑夢くん」  言いたいことがまとまらない。  盗撮されていることは昨日の今日で知っていたが、まさか職場での行動までも把握されていたとは。しかもわざわざマンションの一室を借り、そこから双眼鏡でのぞかれていただなんて。  さらに恐ろしいことに、春人の職場の立地的にたぶん琉笑夢の住んでいる部屋は角部屋のはずだ。角部屋は家賃が高い。 「嘘、だよな?」 「うそじゃ、ねえよ。カロリー高いんだって、あそこのからあげ」  ──そこじゃねえよ! と切実に叫びだしそうになって堪える。
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