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琉笑夢が頑なに春人に住所を教えてくれなかった理由がやっとわかった……心の底から知りたくなかったが。
まさかファンに散財させたお金をそんなことのために使っていたとは。
どうする、怒らないとは言ったものの、心地よさそうにまどろんでいる所悪いが叩き起こして叱るべきか。
「食生活ちゃんと考えろよ……? まあこれからは、俺が毎日作ってやるから、いいけど」
目を閉じたまま何を妄想しているのだろう。にた、と頬を赤らめた琉笑夢に天井を仰ぐ。
──駄目だ、いま一番重要なのはこの男を叱りつけることよりも、耳に入ってくる単語の羅列をどう脳内で処理し理解するのかについてだ。
そういえば、以前事務員の女の子にバレンタインデーに義理チョコをもらったのだが、その日の夜部屋に戻ると、鋭い眼光の琉笑夢が扉の前に座り込んでいたことがあった。
コンビニ前でたむろしている田舎のヤンキーのような座り方で、開口一番がえらく不機嫌な、「おいチョコ出せ、もらったんだろうが」だった。ちなみにチョコは有無を言わさず破棄された。
当時はバレンタインデーだったのでまあそんなこともあるかと気にもとめていなかったのだが、これまでの情報から察するに、もしかしなくとも。
視られていたのだろうか。
あんな遠くから、女性にチョコを渡される春人の姿を。
「あ──、は、はは」
窓際に座って仕事をこなす春人を双眼鏡越しに見つめている琉笑夢を想像しかけ、もう引き攣った笑いしかこみ上げて来なかった。
「……嬉しいからって、周りに自慢すんなよ? ハズいから」
そんなしっとりとほほ笑みながら照れないでほしい、怖いだけだから。
自慢するとは何をだろう、今の会話の流れからするとこれから手渡されるであろう愛夫弁当をだろうか。
「あとな……部屋の一つに、春の部屋が、あって」
これ以上続く言葉を聞きたくない。死ぬほど聞きたくない。
けれども耳をふさいでしまいたくとも手が固まって動かせない。汗の量がさらに凄いことになってくる。そのうちシーツに綺麗な水たまりができそうだ。
それに聞きたくないが、聞かないと後が怖い気もする。
「お、オレの部屋、って、なに、なんだよ、それ」
「んー……春専用の、部屋」
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