墓場まで──08

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 じわじわと距離を取ってしまいそうになっている春人を察知したのか、腰に回されていた琉笑夢の手にがっと尻を掴まれぐいっと引き寄せられた。  あぐ、と首の付け根辺りを噛まれ、ひゅ、と喉の奥から迸りそうになった細い悲鳴を、渾身の力で飲み込む。  そこは人間の急所の一つだ、今から与えられるのはさらなる死なのかもしれない。 「専用ってつまり、お、お、オレが泊まるための部屋だろ? そうだよな?」  いつか泊まりにくるであろう春人用にと、客室の一つでも備え付けてくれていたのであればその健気さに胸も締め付けられていただろう。  しかし今の琉笑夢の様子からは、春人の想像の上をいくまさに斜め上の返答が返ってきそうで戦々恐々とする。  そして、健気でいてくれなんていう淡い期待は簡単に裏切られることとなった。  それどころか、斜め上を遥かに超える返答に文字通り凍り付いた。 「ちげーし。壁一面に写真、貼ってある。春の」 「……あ、ぇ」 「グッズも、ある。春の使用済み、スプーンとか、箸とか」  視界がくらりと揺れる。  それは果たしてグッズと呼んでいいのだろうか。 「……ああ、あ……その、あの」  あまりの内容に口が空回りする。  なんだか耳鳴りもしてきた。  そして何もしていないというのに視界が滲み始める。  どうすればいいのだろう、ここまでの恐怖を感じたのは久しぶりだ。琉笑夢は目を閉じているというのに蛇に睨まれた蛙のような状態になってしまう。  琉笑夢が春人の部屋から帰る際、ゴミ出しといてやるよなんて気が利くことも確かにしてくれていた。有難いなあなんて能天気に帰り支度を始める琉笑夢を見送っていたかつての自分を殴りたい。  スプーンとか箸とか一体なんの目的で、何に使用できるというのだろうかそんなもの。いやきっと何か──ナニかも、しれない。 「抱き枕も、ある。等身大の……だから春専用の、部屋」  等身大の人形ってなんだそれ。 「いやそれオレ専用っていうかおまえ専用の部屋だよな、な……!?」  そういえば、実践練習をしたと琉笑夢は言っていたような。あの時はスルーしてしまったが一体何で実践練習をしたというのか。  その枕かなり青臭そうだなと思って、思ってしまった自分に鳥肌が立った。
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