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「いくら願をかけたところで、毘沙門はそなたの願いを叶えはせぬぞ。
何故か分かるか」
鬼の言葉に、男は声も出せず、震えながら首を横に振りました。
「そなたの願いが邪なものだからじゃ。
そんなもの、叶えるはずがなかろう、仮にも神仏なのじゃぞ。
しかしな」
鬼はそこまで言うと、にたりと笑ったのでございます。
その口元からは、尖った牙が二本、突き出しておりました。
「わらわは違う。わらわは願いを叶えてやるぞ。
それが、どれほど邪なものだとしてもな」
鬼は口の端を歪めました。
「鬼の言葉を安易に信じるというのか」
武将が言った。
「恋路は人を惑わせ、狂わせるものでございます。
それがもし叶うのであれば、他のことは目に入らなくなってしまう、よくあることではございませぬか?」
男は上目遣いに武将を見た。
武将は何も言わなかった。
男は話を続けた。
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