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じゅう、という音がいたしました。
さらに、鉄ごてが触れた周りから煙が上がりました。
男は鬼にそそのかされ、それをいたしました。
しかし、それによって何が起こるかは知らなかったに違いありませぬ。
何故なら、その後に起きたことに男が大変に驚いたからでございます。
突然、鬼を踏みつけていた毘沙門象の片足が持ち上がりました。
毘沙門の顔には、それが石像であるにもかかわらず、苦悶の色が浮かんでおりました。
その直後、鬼が消えたのでございます。
毘沙門の筋骨たくましい足で、しっかと踏みつけられていた鬼が、でございます。
この時になって、自分が大変なことをしてしまったと思ったのでしょう。
男は、床の上に尻餅を着きました。その顔は、わなわなと震えておりました。
毘沙門象は、焦げつく煙を上げる足で、もう一度鬼を踏みつけようといたしました。
しかし、毘沙門象の足が再び降りてきた時には、すでにそこに鬼は存在しなかったのでございます。
毘沙門象の足の下から抜け出した鬼は、素早い動きで毘沙門像から遠ざかりました。
もはや、毘沙門天にはこの鬼を止めることも、追いかけることも出来なかったのでございます。
鬼は、謙信の元へ駆けつけました。
この時、謙信は寝所で眠っておりました。
しかし、その謙信の体から、何かが起き上がったのでございます。
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