本能寺の夜語り

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「それは死者の名を記した書でございました。 その中に、たしかに不識院謙信、つまりは上杉謙信公の名が記されていたのでございます」 男の言葉に、武将は険しい顔になった。 「すべての人の名が、そこには記されているのか?」 「近々死ぬ者につきましては」 男が言うと、武将は表情を曇らせ、口ごもった。 何を言うべきか、躊躇っているように見えた。 「お伺いになりたいことがあれば、遠慮なくおっしゃって下さいませ」 男は武将とは対照的に、平然としたまま言った。 「仮にだが、わしが近いうちに死ぬとすれば、わしの名はそこにあるのか?」 武将の声はかすれ、震えていた。 男は口の端を歪めた。 「もし、あなた様の死期が近ければ、当然そこに名が記されておりまする」 男は話を続けた。
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