本能寺の夜語り

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「あなた様の命をいただいても、よろしゅうございますか?」 鬼は謙信公にそう尋ねたのでございます。 「もし、問われた者が否、と答えたならどうなろう?」 武将はすぐさま口をはさんだ。 「閻魔帳に名が記されていたとしても、その者があの世へ行くのを拒んだとしたら、どうなるのであろうか」 武将は追い詰められた表情をしていた。 対照的に、男は平然としたままだった。 「命を求められた者が、是と答えるはずはないでしょうが、否と答えたところで、命がたすかるわけではございませぬ」 「どういうことだ」 「鬼がかように尋ぬるは、いわば慣例のようなものでございます。 この狡猾な輩は、問われた者が何と答えるかには、さして関心を抱いてはおりませぬ。 この者は、問われた者がどんな顔をしているか、それを見るを愉しんでいるのでございます」 男は言い、笑った。 かすかな笑いだったが、対面に座す武将には、それがはっきり見えた。 武将はぶるっと震えた。
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