28人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなた様の命をいただいても、よろしゅうございますか?」
鬼は謙信公にそう尋ねたのでございます。
「もし、問われた者が否、と答えたならどうなろう?」
武将はすぐさま口をはさんだ。
「閻魔帳に名が記されていたとしても、その者があの世へ行くのを拒んだとしたら、どうなるのであろうか」
武将は追い詰められた表情をしていた。
対照的に、男は平然としたままだった。
「命を求められた者が、是と答えるはずはないでしょうが、否と答えたところで、命がたすかるわけではございませぬ」
「どういうことだ」
「鬼がかように尋ぬるは、いわば慣例のようなものでございます。
この狡猾な輩は、問われた者が何と答えるかには、さして関心を抱いてはおりませぬ。
この者は、問われた者がどんな顔をしているか、それを見るを愉しんでいるのでございます」
男は言い、笑った。
かすかな笑いだったが、対面に座す武将には、それがはっきり見えた。
武将はぶるっと震えた。
最初のコメントを投稿しよう!